11/10/11
どうしようもなく悲しくて、優しい。
彼の手が首へ伸びて、巻きつき、苦しみはすぐに襲ってきた。彼は力を加減するような正気は保っていなかった。それとも、これが正気なのか。
彼のうつろな目に、あたしのうつろな目がうつる。
「寂しい」
そう言いたいだけのくせに、彼はいつも遠回りする。優しい心があるのに、それに気づかないふりをする。生きていたいくせに、死ぬつもりでいる。
もしもあたしが愛されて、傷つくことから守られて、馬鹿のように育ってきたらば、もっと、この世界は違って見えただろうか。あの人たちの口から出てくる黒いものや、狂おしく優しいものや、愛したものの裏側。
「愛してる」
あたしは声にならないまま、言った。
首を絞める力に躊躇を感じる。そして彼の目に光が宿るのを見て、あたしは意識を失った。
こうやって生きていく。
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