12/03/06

また、春の気配がする。

自分だけ取り残されているような嫉妬や、不安や、劣等感をなにかのせいにして、この太陽の下を歩く。

あの日起こった出来事に蓋をした。けれどそれは蓋をしただけであって、蓋を取ってみても悲しみは悲しみのままだし、あたしは自分が思う以上に、空っぽだった。

「大好きだよ」彼が言う。普段なら受け流せたはずの言葉なのに、胸が痛くて、苦し紛れに笑った。彼はそれに気づくことなく、嬉しそうに笑った。

太陽はその目に痛いほどの光を降り注いでいた。風が、通り抜けてゆく。

もう歩けなかった。

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