13/05/01

「会いたい」

不思議なことを言うものだから、思わず笑った。その笑い声が空しく響いたことに気づく。ごめん、と言うと、受話器から溜息が漏れるのが聞こえた。

「なに考えてんのか、教えてよ」

浅ましくも求めるその細長い指が、あたしの身体を這う。「俺がおまえを選んでも、おまえは俺を選ばないだろ?」「あいつのせいなのか?」もうなにも聞きたくなくなって、その唇を塞ぐ。

笑うと垂れる大きな目は、あの人にそっくりだった。それが苦しそうに歪み、あたしを睨む。救いようのない快楽と、秘密、そしてあたしへの怒りに、彼がおぼれてゆく。それを見ていると胸が引き裂かれるように痛んだ。同時に、安心する。

なんでそんなに可愛いの、と言うと、彼は力なく笑った。

あたしはずっとこの痛みを求めていたのだと、知る。

「おれのこと見て」

もう酒のまわりきっただらしない意識のなかで、会いたい、と言った。

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