13/11/12

まるで世界に二人だけしかいないような夜、雨が降る。窓を叩く風の音と、外灯が照らす部屋の中。彼の横顔だけが見える。

「ごめんなさい」

あたしがそう言うと彼は返事する代わりに、重ねた手を強く握りしめた。震えているのがどちらなのか、わからないくらいに。

「どうしたらあなたを救えるの」

彼はいまにも泣き出しそうな顔で、すがるように言った。このひとはなにも知らなかった。あたしを救えることを。それは彼自身が言ってほしい言葉だったことを。

「もう帰らなきゃ」

そしてあたしは、彼の手をほどく。

傘も忘れて、真っ暗な夜道を走った。なにもかもうんざりだ。憎い。憎い。憎い。悲しい。あたしは彼を置き去りにした。

「お願いだから、行かないで」

彼はあたしを置き去りにした。

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